女将の眼差しに翻弄される京の宵酒

一人酒を探していた
五間行き過ぎて戻る
春に裾ゆらす暖簾
ガラガラ…
いらっしゃいませ
御一見さんどすなあ
女将の目が言う
軽く指されたカウンターに座る
「熱燗!」
彼女の目が一瞬こちらを向く
そんな急がず待ちよし〜
そんな目だ
銘柄を聞かれることもなく
しばらくして
小柄な白磁風の一合徳利に猪口が添えられる
整った日本髪に小振りな玉かんざし
粋な西陣に白割烹着、白い指先が眩しい
間合いの分からぬ無神経と見られたくない
タイミングを待つ
忘れられてるのかと思った頃
お通しが出る
薄い京焼の小椀に菜の花のおひたし
瀬戸物ひょうたんの箸置きにゆっくり竹箸がのる
わかりましたか
これがウチのペースどすえ
女将の目が言う
前屈みな背を伸ばし、トントンと胸を叩き息を落とす
女将の目が少し緩む
気がすこし楽になり
え〜と〜…目を宙に泳がし一見を気取る
なんどす?
首をかしげた女将に今度はゆたらかな微笑が浮かぶ
なんという間合いの芸術
深々と癒されてゆく…
おおきに、またお越しやす
暖簾を出る
白い満月に思わず照れ笑いした

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