春 宵の街を歩く . . . かすかな南風 . . . 連山を見上げるように ビロードのビル街を 見わたす

「 世界 」は
存在しない

マルクス・ガブリエルは
言う

世界は
さておき

わたしも
若い頃から

「 街 」は
存在しない


考えてきた

華やかな
「 街 」にこそ

青春は
あるものと

何度も
その扉を叩き

その度に
そこは

暖簾に
腕押しのごとく

恐ろしく
実態のないことに

愕然とした

彼が言うように

そこは

個別の欲求が
脈絡もなく交差し

人々を
煽動し

夥しい
広告引力で

ただただ

重なりあっているに
過ぎない

ではいっそ

「 街 」は
無意味なものなのか

否、

意味はある

「 街 」ほど

己に出逢える場所は
他にない

路面電車を
待ちながら

ポーズを
気どる

己の
哀れさよ
悲しさよ

「 街 」は
己の抱える 暗い影が

否応なく
暴れ狂う

完膚なきまでに
叩きのめされる

誰が見ているわけでも
ないにせよ

造物主の目からは
逃れられない

. . .

「 街 」にやがて
夜の帳が降りる

光の乱反射が
蠢きはじめる

狭い居酒屋の
カウンターに

一人座る

一人、一人、一人 ..

そうだ

街は
一人を覚醒させる
装置なのだ

酔った身体で
深夜の裏道を歩く

光の消え落ちた
薄汚れた看板の文字が

ただの
ペンキであることを

静かに
語りかけてくる

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