なぜこの地球があり  なぜわたしはここに居るのだろう?  ある朝湯の風景 。

漆黒の
カンバス

その
中央を

細い
光の帯が

螺鈿細工のように
輝きながら

遠く
伸びている

ふと

そこから

一粒の光が
離脱し

ふらふらと
彷徨いはじめる

なんだろう?

まるで
自分が

長い舌で

獲物を
捕獲する直前の

カエルのように
思えた

一粒の
光は

時折
消えては

また

再び
現れる…

一瞬

カンバスの
上段に

碧いオーロラを
感じ

視線を
上げる

なんだ
気のせいか

目が痛くなるほど
漆黒だ

背後で

ゴボゴボゴボ..
無粋な音

やれやれ

わたしは
浮力にまかせ

背中の緊張を
解いて

ゆっくり
目を閉じた

. . . .

唐突に

ジャッ ジャッ ジャジャ〜

太古の眠りから
覚めたように

源泉が

湯気と
ともに

輪になって
押し寄せてくる

しまった !

わたしは
慌てた

カンバスを
右手で

ワイパーのように
拭う

もう
手遅れだった

夜明けの
光が

遠く沖へ伸びる
半島の稜線を

くっきりと
際立たせ

天、地、水は
開闢した後だった

しまった〜!

もう一度

長い
舌打ちをする

沖合で

小さな
漁船が

波間に
見え隠れし

美しかった
螺鈿は

白けた
うすっぺらい街並みに
変わっている

わたしは

フ〜ッと
ため息をつき

三十数えて

一人きりの
広々とした浴槽を

後にした

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