小さな
露天風呂
首まで
浸かる
ガラガラッ
見上げれば
初老の男性
わたしは
「 こんばんは 」
と言い
身体を5㎝
縁へ寄せた
彼も
「 こんばんは 」
と言い
ハ〜ッ …
と
感嘆符を吐くと
毎秒 10㎝の
スピードで
首まで
浸かった
二人が
眺める先に
時化た
薄暗い日本海
「 荒れてますな〜 」
彼が言う
「 鳥も 飛べませんね 」
わたしは返した
「 トリ ? 」
彼が
わたしを向く
「 あ、ジョナサンのことです 」
わたしが言うと
「 ジョナサンか〜 」
彼は
復唱し
お湯で
顔を覆った
ドドドドド ….
ゴ〜 ゴ〜
ザッブ〜ン
日本海は
吹子のように
水しぶきを
舞い上げるや
ザー ザー ザー
と
50m
後退した
「 リチャード・バックでしたね〜 」
予期せぬ
返しだった
将棋の
時計審判が
10秒、20秒、1、2、3、4 …
と刻む
「 彼なら
こんな海だって
へっちゃらな
はずなんですがね〜 」
わたしが
返す
すると彼は
間髪入れず
ハッハッハッ …
と笑い
「 わたしも
別の道があったかな〜 」
と言って
遠い目をした
「 同感です 」
わたしは
答え
少し微笑んで
会釈し
お先に露天を
後にした