とある交差点、あざやか過ぎる「立ち飲み」点描。

路地から
大通りへ

アクセルに
力を入れた瞬間

あざ笑うように

赤信号が

わたしのクルマを
遮断した。

5〜6ヶ所
行き先を抱え

少々
苛立っていた。

視野の片隅に

ゴマシオ頭の

年老いた爺さんが
現れる。

彼は

最短距離で
やって来て

角の自販機に

ピタリと
止まった。

背は曲がっている。

が、

張った背筋が

彼の過去を物語る。

ゴツい手に
不釣り合いな

ちいさく黒い
小銭入れ

太い指で
つままれた
コインが

シャリンシャリン

もつれるように
投入口から
吸い込まれる。

直後

ゴトンゴトン

2度音がして

彼は
張った背を
丸めた。

あ、カップ酒

次の瞬間

アルミ蓋が
剥ぎ取られる
シュッ
という音。

クッと
彼は
天を仰ぐ。

ゴクッ

確かに
ゴクッは
1回だった。

ゴクッゴクッ
ではない。

ほぼ同時に

そのカップは

ゴシャッ

ゴミ箱の底で
音を立てた。

彼の意識は
すでに

小銭入れの
チャックを
閉めることに

向かっている。

彼は

水兵のように

正確に
ターンした。

次第に遠ざかる
その背中

ほ〜っ . . .

あざやか過ぎる
ピットイン

寸分狂いのない
正確な動作

そして
日常への復帰

彼の背に

あの
F1テーマソングが

高らかに

鮮やかに

流れていた。

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