汐の香りがなつかしい . . . 、 あの . . 海の日の想い出

夏まぢかの
ある日

わたしは
久しぶり

そのマリーナを
訪れた

チャプン . .
チャポン . .

. . . . .

ニャア〜 . .

ウミネコが
視界を横切る

水平線に向かって

几帳面に並び
係留された

沢山の
クルーザーの中に

先輩のそれは
なかった

わたしも時折
クルーとして
呼び出され

舫ロープを

まるで
ジョンウェインのように

桟橋のビットめがけて
投げつけたものだ

先輩のクルーザーは

基本
桟橋から離れることは
なかった

そこに存在することに
意味があった

彼はよく

「 このマリーナで俺のが一番高い! 」
と言った

それはどうやら
金額のようだった

そして

著名な某氏のクルーザーより

「 俺の方が8㎝長い! 」
と鼻を鳴らした

そんな
クルーザーも

時折
出航した

あまり長くじっとしていると
船底に
フジツボが付くらしい

スピードが
波の間隔に
合わないのか

それは
首を振る
張り子の虎のように
船首を上下させ

わたしはしばしば
デッキから
振り落とされそうになった

桟橋に戻ると
命の無事を
感謝したものだ

先輩が逝って

1年余りが
過ぎ去った

一番高いあの
クルーザーは

今どのへんを
疾っているのだろう

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