三日月が
西に傾く
物憂い
夕暮れの並木を
わたしは
駅に歩いた
駅前にある
並木の
最後の1本が
妙だ
チューリップの様に
丸く刈り込まれた
その木は
まるで
空中に浮かんだ
スピーカーの様に
猛烈な騒音を
撒き散らしている
なんだろう?
木の下へ
近寄った
それは
雀の大群だった
千羽くらい
いるのか!
かたわらの道を
左官道具を積んだ軽トラが
わだちで
ドン
と
音をたてた
雀は
0.3秒
沈黙した
続いて
再配達に
苛立っているような
箱型の宅急便が
ドドン
と
音をたてた
雀は
音の大きさに
比例して
0.5秒
沈黙した
しかし
全体としては
猛烈な勢いで
鳴き続けている
わたしは
頭上に手をかざし
パン! パン! パン!
柏手を打った
3連打に
意表を突かれたか
彼らは1秒近く
黙った
それは
とても長い時間だった
明らかに
今のは何だ!?
と
彼らが
分析に着手している空気が
伝わった
彼らとて
自然音と
意図ある音を
聞き分けるための
頭脳があるようだ
わたしは
再び手をかざし
5連打を
意図した
が
やめた
電車が近づく
警報機が
鳴り始めたのだ
彼らは
警報機に
なんの恐れもなく
鳴き続けている
学習しているのだ
わたしは
電車へ走った