わたしが
酒場でたのむのは
「 熱燗! .. 辛口! 」
寒い夜は
「 沸騰しそうに熱いやつ! 」
とつけ加える。
しかし
場所の空気によっては
支障をきたす場合もある。
礼儀は
知っている。
そんな時は静かに
「 赤ワイン 」
と言う。
わたしが行く
レベルの店では
これだけ言えば
たいがい
何か出る。
銘柄など
人生この方
一度も
言ったことはない。
なぜなら
知らないから。
友人に連れられ
カクテルバーへでも
行こうものなら
わたしは
貝になる。
1品として
名前を
知らないから。
さんざん
思案した挙句
「 赤ワイン 」
とつぶやくか
「宇宙に一人放り出された時
呑みたい酒..」
などと
こましゃくれる
しかし
先輩の奢りで
レベルが上がる店に行くと
「 赤ワイン 」
だけでは済まない
「 銘柄は?」
と
くる。
わたしは
たじろがない
「 落ち葉みたいなやつ 、
チョークが混じったような …」
と言う。
ママさんらしきが
ため息交じりに
少し困った顔で
笑う。
何に関しても
銘柄を丁寧に
どうこう言う人がいると
すごいな…
と思う一方
自分とは
遠い人に見える。
酒場でわたしは
限りなく
自由なのだ。