わたしたちが求める「ゆるやかな午後」の先に. . .

ふと
作業に疲れ

斜面の窓から
小径を
見下ろす。

痩せた小川を抱き
柿の木に覆われた
その小径は

眩しい木漏れ日を作り

何度も蝉が鳴き

しばしば風雨に
乱舞した。

彼は

わたしが愛する
その景色に
時折
姿を現した。

彼は

坂を上る度に
歳を拾った。

あどけない幼少の表情は

時に
友人と
奇声を上げながらも

あっけなく
寡黙な青年の顔へと
代わり

いつしか

責任を背負い
やや息苦しそうに
前のめりとなった
大人の表情をとり

ふと見れば
苦労が顔相に刻まれた
初老の男へと
転じた。

時は
かくも容赦なく

彼だけを

襲った。

やがて彼の姿は

斜面のやせ衰えた
一枚の畑に
日常的に
見られるようになった。

彼は
ささやかながらも
穏やかさを取り戻し

時折
周囲と明るく談笑して

彼自身が
本来あるべき

ゆるやかな午後を
獲得したように見えた。

彼は
さも忙しそうに
しかし
嬉々として

幼少のごとく
生きるための用事を
創りだした。

今日も
一仕事終えた
彼の畑から

薄く白い煙が立ち上る。

その煙は
それほど遠くない内に

彼自身の
葬送のそれと
なるはずだ。

限りなく
ゆるやかな

平安の午後の

その先にある

広々とした
蒼い空に向かって…

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