「つかの間の平和」にしないためにも 歴史と生きながら 東京を歩く。

昨夜は

東京赤坂辺りに
所用があり

帰途
歩くことにした。

宿営地は
渋谷エリア

「宿営地」と
書いたのは

2.26を
想ってのこと

あの塊を
孕んだ時代は

つい
最近のことだった。

すっかり暮れた
道の両脇に

青山墓地が
見え始める。

維新から
戦中の

数多の先達が
眠る
暗がりは

深い闇と
吸い込まれそうな寝息に
包まれていた。

江戸の
保科正之に続き

東京帝都を
現代の TOKYO に刷新した
後藤新平の寝息も
聞こえる。

ずっと
気づいていた

左手後方
頭上に

ここ一両日で
臨月を
迎えそうな月が

ゆるやかに
浮かぶ。

乃木坂トンネルの
銘板を見て

彼の地
203高地が
頭を
もたげる。

時代と
エリアが
錯綜する

弾丸と
硝煙と

逼迫した外交と
混沌とした内政と

そして
焼け野原に満ちていた大地を


わたしは歩く。

無名戦士たちの
阿鼻叫喚に
胸が苦しくなる

案の定

「君は幸せでいいなあ . . 」

もちろん
声の主は
月だ。

京都で見る月は
歴史の全てを
達観して
優しいが

東京の月は
幾分
顔相が
険しい

それは

常軌を逸した
近代を

見てきたばかり

だからに
違いない。

やっと
わたしの足は
根津美術館に
至る。

月も

浮世の顔に

戻った。

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