ありがとう天の白王

歩きはじめて
二時間
深夜三時半
黒き国道。
貨車の汽笛が
針先のように
冥界に吸い込まれる。

見下ろせば遠く
我が足であろう..
呵責に歩を進める。
思考と身体は遊離し
今生の全てと
縁が断ち切れる。

おびただしい何者かの思念に
冥界への裂け目を探し
辺りを見回す。

キミのことはよく知っている..
辺りは言い
さしたる人生じゃない..
と笑う

それは分かっている..
わたしは言う。

再びヒタヒタと
足音だけになり
大橋に差し掛かる。

見ようともせず
黒き川面に
強い光を
左目が
捉える。

見たことのないもの…
何!

キミが気づかないからさ…

橋の中央辺り
一息入れて
ゆっくり天を仰ぐ。
急に立ち止まったので
くらくらする。

キミが気づかないから
こうするしかなかったね…

…月…

生まれてはじめて見たのか…
それは明らかに
小さく微笑んでいる。

あどうも
わたしも小さく微笑む。

さっき話しかけたのはわたしだよ…
もっとゆっくり..と言ったのに
キミは棘のように殺気立って
勘違いしたね…

わたしは笑った
月も笑った

再び歩き始める

それは穏やかな
月夜だった。

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