町家に挟まれて
まっすぐ伸びる
薄暗い路地。
網膜を
サクサクッと
白狐(びゃっこ)が
通り過ぎる。
稲荷神!
辺りを見回すが
それらしき祠はない。
時折すれ違う人. . .
みな能面のごとく
表情もない。
風はヒタヒタと冷え
薄着を後悔する。
少し流れが悪いな。
あの角を曲がろう。
どっち?
「 左だよ. . . 」
白狐の声。
路地はさらに暗さを増す。
背後だった月が
左軒先の狭間に
見え隠れする。
まるで水彩画のように
行く手の民家は
グラデーションに
溺れる。
肌寒さで
涙目になったかな. . .
何かに命じられるように
再び左折する。
お待ちしてましたよ. . .
路地中央に
下弦の月が微笑む。
一人、二人、三人、四人
道の両脇に
着物姿の白狐が立つ。
真っ白な表情と対比して
彼らの着物は
鮮やかな朱塗り。
わたしは
それらの一人が
誰であるか
わかっていた。
女装した男. . .
いや
既に性差すらない。
「だって、女が好きだろ」
一人が言った。
行き止まりに赤提灯。
がらり. . .と入る。
振り向いたのは
透き通るように美しい
女将の白狐。
わたしは
「熱燗」と言って
静かに座った。