白黒の
小さくて
スリムな彼は
コマ送りの
ように
激しく
羽ばたくと
直後
四肢も
のびやかに
眼下の
大海原へ
滑空した
なんて
羨ましい!
わたしは
思わず
手すりから身を
のり出した
彼は
円月殺法の
ごとく
たおやかに
空気を
切り裂き
気流に
のって
再び
上昇すると
わたしの
居る
露天風呂の
軒下へ
まったく
事もなげに
チョンと
とまった
わたしは
嫉妬したが
表情には
出さなかった
なぜなら
彼が
見るともなく
わたしを
チェック
していたからだ
彼は
明らかに
クチバシの
たもとで
薄ら笑いを
押し殺していた
もちろん
わたしは
極力
視線を逸らし
知らぬフリを
して
湯船の中で
ふ〜っ
と
同じく
四肢をのばし
心から寛いだフリを
した
しかし
彼には
完全に
お見通しだった
なんなら
飛んでみる?
と、
言外に
彼は
わたしを
挑発した
そして
わたしが
完全に
お手上げであることを
確認すると
興味を
失ったように
再び大空へ
飛び出し
もう戻って
こなかった
そう、
彼は
わたしに
教えを
説いたのだ
どう
あがいても
追い着けないものが
あると . . .
大海原は
三面鏡のように
すべてが
輝いていた
わたしは
心から
晴々した気分で
露天風呂を
あとにした