教えとは 『 タイムカプセルの先ほどに在る、わずかな一言 』なのか. . .

凍てつく深夜
就床の一瞬

脈絡もなく

ある人の姿が
瞼に浮かんだ。

真っ白なカッターと
黒の蝶ネクタイ

喫茶の
狭い厨房に立つ
40歳くらいか

喧嘩っ早そうな
先輩男性の…
姿

伏し目がちで
斜に構えた彼には

常に孤独が
纏わりついており

学生アルバイトの
わたしは

お客のオーダーを
恐る恐る
彼に伝えた。

その喫茶は
場違いなほど
大箱で

暇な時も
あるが

人が入り出すと
もう止まらない

ある日
3〜4名の
ホールスタッフではもう
賄えぬほどのお客に
なった時

積み重なるオーダー票に
びくともせぬ彼が

静かに
わたしを呼び止めた

「肩を動かすな!」

そう言っただけで
彼は黙ったが

その目は
普段の目と違い

真っ直ぐ
わたしを見詰め

その瞳の奥は

優しかった。

わたしは

「はい」と
返した。

あれから
30年以上が
経つ。

彼は
どんなに
暇な時の
オーダーも

最も忙しい時と
同じスピードでこなし

あとは
腕を組んで
ガラスケースに
もたれていた。

わたしは
次第に温まる
布団の中で

予想外にも
次々と
湧き上がる涙を
止められなかった。

そうだ

わたしは貴方に
学んだのだ。

ありがとうございます。

布団の中の
両手を

握りしめた。

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