令和 初夜 丑寅の刻  浄めの雨が 京の路地に降りそそぐ . . .

後方
33m

白き

二本の耳が
追ってくる

「 出ておいで 」


禁句だ

彼女には
人知れず

この地を
京都たらしめる

使命が
ある

絹糸のような
雨が光る

もちろん

月の姿は
ない

いや

あったにせよ

今夜は
二十六夜だ

丑三つ時
東の空に上り

白けた明けの空に
南中する

そんな

薄幸な
弓張月に

一体誰が
気づくというのか

. . .

人肌の
しめやかな風が

彼女の
思念のように

首筋に
絡む

その
憂慮は

痛いほど
分かる

月を見上げて
政治を取り仕切り

舟を浮かべて
月を遊んだ時代は

遠い
遠い何処

二十六夜講
と騒ぎ

遅い
遅い月を

待ち焦がれる人など
皆無だ

時代とは
移り変わるもの

どんなに京都が
劣化したにせよ

それを
劣化だと

誰が
断定するのか

観光客が
溢れ

新興ホテルが
乱立し

土地が
高騰し

経済と文化が
騒乱する

それは
それで

新しい
京都なのだ

. . .

時刻は
丑三つから

寅の刻へ
移ろい

霊威に
気圧され

下界は
暖簾を仕舞う

物の怪が
跋扈し

冥界に
通ずる時刻

この

畏怖への
敬意こそが

京都を護る
最後の一線だ

彼女の思念と
わたしの思念が

シンクロ
する

だから

「 出ておいで 」

とは
言わない

だから
彼女は隠れる

もう少し京都を
愉しもう

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