キュッキュッ
もつれあう波
レストランの光が
点描のように散る
ロブスターが香り
牛の呻きのように
マストが傾ぐ
夕暮迎えた
アメリカ東海岸
ヨットハーバー
フォートローダデール
ただただ遮二無二
それだけだった若き頃
仕事の一環で訪れた。
外地に来てこそ得られる
忙中閑がある。
空気はこんなにも優しく
馨しかったのか…、
まさに、生まれて初めてのように
鮮烈に脳内に叩き込まれた
至高の空気感力。
しかし
これは長い長い前置きである。(笑)
実は今を盛りと庭先で香る
沈丁花のことを書こうとした。
寒さの峠を越し
また春が来てくれた…という感慨である。
秋がくればきっと
あの金木犀が香るに違いない。
官能ホルモンを刺戟し
この世とあの世の狭間に身を置くような
いわく言い難し感覚。
スケール感を出そうと
冒頭少し見栄をはったばっかりに
ずいぶん緩慢な文章となった。
だが、
沈丁花と金木犀は
もうしばらくその恩恵にあずかれるとしても、
あのフォートローダデールの風に
もう一度揺蕩うことは
あるのだろうか。