京都、喫茶店 点描その2

同じく
京都での学生時代
別の友人との話である。
足の踏み場もなく
運動会の万国旗ごとく
洗濯物が垂れ下がる下宿の一隅で
彼はいつも一人
パチリパチリと碁を打っていた。
時間を持て余していた私は
同様の彼とよく
白川辺りにあった
クラッシック喫茶を訪ねた。
そこは
いかにも秀才風が
一人一人等間隔に座り
何やら専門書らしきを捲ったり
ペンを走らせたりしており
曲が終わると
往年の指揮者
カールベームのようなオヤジが
おもむろにレコード盤を掛け替えた。
そんな空間に流れていた曲は
ほぼ決まって
バッハの平均律である。
得体の知れぬ
焦燥感にかられていた
私と彼にとっては
全く納得のいかぬ音だった。
そんな時我々はよく
リヒャルトシュトラウスの
「英雄の生涯」を
リクエストした。
興奮したキングコングが
持ち上げた車を
大音響と共に
地面に叩き落とすようなその曲に
秀才たちは
いや〜な顔をして
店から退去した。
ガラ〜ンとした店内を見渡し
カールベームのオヤジが
お前らまたやってくれたな…と
横目づかいながらも
口元に
親しみある笑みを浮かべていたのを
今も懐かしく思い出す。

Written by: